2006年04月05日

[ワンダフル食堂の人びと2]第1話/森本“TJマシン”克己

あの節分の日の出来事からひと月。

野辺山銀座商店街は、まだ余韻に浸っていた。

無理もない。ほんの一瞬の夢ではあったが、かつて少年少女探偵団の一員だった事を思い出させる騒動だったのだから。

探偵団の伝統は、残念ながら良男たちの世代で途切れている。
あの日から大人たちは、子供たちに自らの武勇伝を語り、子供たちも目を輝かしながら、それを聴くようになった。


「その人気歌手、糸野みるくの正体、誰だったと思う?」
「えっ、まさか…」
「そう、そのまさかの、怪人四十八面相さ」
「ええーっ!?だって女の人なんでしょ?」
「怪人四十八面相は若い美女にも化けられるから、たちが悪いんだ」
「お父さんたら、糸野みるくの大ファンだったから、一週間も寝込んじゃったのよ」
「ああ。それで、ヤケクソになっちゃってお母さんと結婚したんだ」
「あなたっ!」
「うわっ、冗談だよ」
「あはははは…」

こういった光景は、各々の家庭だけではなかった。


「よう、小百合ちゃん!カニクリームコロッケまだある?」
「ごめん、さっき終っちゃったの。メンチカツならすぐ出来るわよ」
「ははーん、さては昨日のハンバーグ、残ったな?」
「まあ、失礼ね!」
「はは、悪い悪い。じゃあメンチカツ定食で」
「あいよ。良ちゃん、野辺の湯の大将にハンバーグフライ出したげて!」
「やっぱり残りもんか!」
「馬鹿ね、嘘よ。フフフ…」

と、小百合が奥に引っ込むと

「いや、ありゃマジだな。俺もすすめられて注文したとこだ」

と、隣の卓のふじむら写真館の大将。

「ところで、風呂屋の、ここんとこ繁盛してるんだって?」
「いやあ、聞いてよ写真屋の。このひと月、子供が来るようになってさ。ほら、うちは俺くらいの歳からジイさん連中まで、幅広く大人がいるだろ。探偵団の話聴くにはもってこいなんだよ」
「なるほどねえ。じゃあひとつ俺も今夜、富士山の絵でも見ながら、武勇伝を語りに行くか」

大人と子供、そして町のコミュニケーションの理想の姿ができたかのように見えた。

その日までは…

それは最初、かすかな音だった。
商店街の有線放送から流れる歌謡曲に、キィーンと金属音が入ってきたのだ。

金属音はだんだん大きくなったが、みんなは、ただのハウリングですぐにおさまるものだと思っていた。

が、それはおさまるどころかますます大きくなっていったのだ。

キィーーーーーーーーーーーーーン!

誰もが耳を押さえ、一瞬気が遠くなったその時、金属音は消えた。

そのかわり、空を見上げると…

「な、な、なんだありゃあ!?」

いつの間に現れたのか、空一面に、数えきれないほどの熱気球が!!

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。